4日も前から「箱罠」に掛かっていた2頭の猪‥
かなり逃げ出そうと暴れたのか、1頭は冷たい冬の地面に疲れたようにうずくまり‥
もう1頭は、そのへたっている猪の「お尻」を、鼻でずっとつっついている?状態でした。
(腹が減って動けない猪を、もう1頭の猪が“お尻から食べようとしている”のかしら? もしかして?)
私にとって猪ってのは、兄弟同士でさえ共食いするというイメージだったので、
そんな恐ろしい事をぼんやりと、想像していたのでした。
しかし同行していた区長さんは、更に凄い想像力を持っておられて
「こいつら、今年生まれた猪のくせに もうメスの尻の匂いを嗅いでるんか!?ったく、ふざけた奴だなっ!」
って、仰ってましたね‥
「猪の駆除」
ここ数年で急速に増えてしまった、猪たちを
私らは、高額な「電気柵」や「わなの檻」を仕掛けて追い払い そして殺処分しなければならない程になっていたんですね。
畑や田んぼを荒らし‥
今年の夏に「親子バーベキュー」を行った、集落近くの野崎地区集会所の芝生広場さえも、まるでトラクターで掘り起こしたように滅茶苦茶にしているのです。
区長さんの言葉には、そんな猪たちに対する憎しみが自然と込められているのですね‥
しかしそのバーベキューをした集会所って、実際は集落からそれほど離れてなくて
ほんの少し山手にあるだけで‥
もしも今日、
「玄関を開けたら、猪が家の中に突っ込んできたよ~!」
なんていうトンデモ無い事が、集落内に起こったとしても、 もう‥それほど驚く事では無くなってるかもなぁ〜 なんて、私には思えてきているのです。
さて‥
わざわざ猪を“食肉用に持って行ってくれる業者”の方が早朝から来てくれたのですが‥
「箱罠」の中で、疲れきった猪を見るなり
「あらら‥ こりゃまたずいぶんくたびれてる感じだなぁ~。
4日も放っておいたの? う~ん‥ もしかして病気で弱っているかも知れないから、今回は持って行けないよねぇ~」
って‥
あっさりと帰ってしまいました。
食肉として持っていって貰えないとなると、
残念ながら「箱罠」の猪さん達は、殺された後に地面に掘られた穴に埋められて‥処分される事になるだけ。
(せめて食べてあげるのが「供養」になると思っていた私と区長さんは、可哀想な気分になりましたね。)
さて、あえなくして「猪を殺処分」してくれる市の職員、立野さん(仮名)が現場に到着しました。
猪を殺処分するのは、狩猟免許を持ち「電気式殺処分装置」の講習を受けている人だけに許される行為です。
食肉引き取り屋さんが帰った直ぐ後に、入れ替わるように現場に到着された立野さん‥
「いやぁ~ゴメンゴメン、ちょっと遅れた!直ぐにかかるから!」
と、馴れた手つきで道具を準備し始めました。
それは2本の「槍」らしきものと、小さな腰袋に入っているバッテリー装置。
(あれ? 高電圧で殺傷する機械なら‥)
って、私は勝手にそれなりの大きさの機械を想像していたので、
「こんな小さな機械で、猪が殺せるんですか?立野さん‥ 」
って、思わず聞いてしまいました。
「ああ、大丈夫や! でかい猪でも、1分あれば殺せる。お前そう言えば初めて見るんか?」
立野さん(仮名)は私に、
「スマホでそうやって写真を撮るのは構わんけど、うっかり鉄の檻には触るなよ!高電圧でお前が死ぬぞ!」
って、忠告してくれました。
二重三重に安全スイッチで保護された「電気式止めさし器」のスイッチ類は、
いかにこの機械が”危険な道具”であるかを物語っていました。
「ここと、ここのスイッチを入れたら、グリップにある“押しボタンスイッチ“が最後の砦や。
よし‥やるか‥」
立野さんはゆっくりと猪の柵に近づきました。
すると猪は何かを察したのでしょう
閉じ込められている「鉄製の箱罠」に、猛烈な頭突きを し始めました。 その檻の中の僅かな助走距離にかかわらず、その破壊力は相当で‥
「ガシャーン! ガシャーン!」という頭蓋骨と鉄の檻のぶつかる痛々しい音が、山中に響きました。
「ほほっ、最後のあがきやな‥」
区長さんが呟きました。
彼らの生きようとする本能に、本当に恐れ入りましたね。(人間が真似をするなら、頭蓋骨陥没か脛椎損傷でしょう‥)
さっきまでうずくまってた猪も、重い腰を上げて檻の中を逃げようとしていました
しかし‥
立野さんは僅かに動きの鈍いその猪に狙いを付け、槍を突き刺しました。
(そして多分高電圧のスイッチも指先で押したのだと思います‥)
私がこれまでに聞いたことの無い、本当に悲痛な断末魔の叫びが‥ おそらく数百メートルの範囲で、山に囲まれた田舎の田んぼ中に響きました。
(高電圧って‥ 一瞬で殺しちゃうんじゃなかったのか?)
ずっとうずくまっていた猪だったのに‥
こんな大きな断末魔の叫びが出せるのかと思わせる程‥
「ピギーッ!ピギーッ!ピギーッ!」
という叫びは、耳をつんざく程の音量で
私は、耳を塞ぎたくなるほどでした。
槍に刺されながらも、ヨロヨロと逃げる猪‥
しかし突然にもう一頭の猪が、
その「高電圧の槍」に噛み付いてきました。
「あっ!こいつ!」
立野さんが一瞬慌てましたが、高電圧のかかった槍は 確実に猪を死に導いていました。
耳をつんざく断末魔の叫びは徐々に弱くなり、やがてため息のように聞こえなくなっていきました‥
この時、ただ見ていただけの私でしたけど、
生意気にも混乱してまして‥
あれ‥?
今、もう一頭の猪の行動って
(どう考えても‥仲間を守ろうとした行動だよな‥?)
(何で? こいつらって‥食べる事と、生殖しか脳ミソに無いんじゃ無かったっけ‥?)
(なんで助けようとしたんだ‥?)
って、脳ミソがパニックになってましたね‥
立野さんは、やがて動かなくなった猪の心臓を跨ぐように2本の電極の槍を差し、高電圧をかけて最後のトドメを差したんですね
同胞の猪が死んだのですから、檻の中の猪は 怖じ気づいてもいいような状況だったんですけど
その猪は、怖がるどころか‥
逆に歯向かってくる迫力がありましたね‥
その顔には
「ウチの大事な妹に、何してくれたんや?われ〜っ!!」
って、書いてあった気がしました‥
(2頭の猪が姉妹だったというのは、もちろん殺処分した後で分かったのですけどね‥)
私や区長さんが「こいつら、弱った相方を食べるか、尻の匂いを嗅ぐくらいしか脳ミソが無いんだろな~!」
なんて“酷すぎる先入観”で見ていた冒頭の
「鼻でお尻をまさぐっているように見えた、怪し気な行動」って、
実は‥
( ほら‥人間が来たんだよ!逃げなくちゃ‥ほら、お尻を上げて!)
って、促していた行動だったんですね‥ 鼻で一生懸命‥
しかも自分だけが‥ じゃなくて
(ほら、一緒に逃げよう!頑張れっ!)
って、最後の最後まで妹(姉?)を励ましていたんですね‥ 彼女なりに。
体長約1メートル。メス2頭‥
役所への申請の為に、猪駆除の証拠写真を撮ります。
箱罠の管理者として、何もしていない私が「管理プレート」を持っての記念撮影‥
その足元で横たわる、最後まで生きようとしてた猪姉妹の写真‥
なんだか自分がバカみたいに写ってるんだろうなぁ‥って、思いましたね~(´д`|||)。
(私は君達を食べなかったけど、今後頂く食事には これまでより感謝するようになれそうです‥)
「魚釣り」でもいいと思いますけど‥ 人は時に自ら生き物に手をかけ、捌き、それを食し‥
「ああ‥自分は命を頂いて生きてるんだなぁ」って、思う時間を持つべきだなと‥なんとなく思いましたね。
そう言えば鶏のオスって、生まれたなりに殆ど殺されてるんですって?(毎年国内だけで1億羽以上?)で、メスにしたって身動き出来ないゲージの中で卵を産み続け、ダメになったらお肉になるだけの一生らしいって?
(“眠れないさめ”さんっていう若い女性ブロガーさんが、書いてましたよねぇ‥)
(でも感謝して、食べますって言ったところで‥
鳥達にとってはやっぱり酷すぎる話なのでしょうね‥)
日本も、ヨーロッパみたいに、ゲージ飼育を禁止して、自由に動ける飼育環境‥
出来るなら太陽の下で飼育をするべし!っていう法律を作ったら(卵もお肉も凄い値段が上がるケド)、例え食べられる運命の鳥でも少しは幸せになれるかもしれないよなぁ‥
(なんて、言いつつ 安い特売品を探して買っちゃいそうな私なのですが~щ(゜▽゜щ)。)
「人類が滅んだら、どんなに他の生き物が喜ぶか、あんたに想像出来るか~っ!?」って、
“喋る猪”さんに突然、からまれたら‥
もう、逃げるしかないですねぇ
その猪さんに反論出来ないですもんね
猪さんたちを納得させる答えなんて
私のようなアホに、有るわけ無いですからねぇ‥(´Д`)
おしまいです‥(´Д`)。